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2012年8月11日
全国大会観照記 富山大会二日目

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例によって全国大会(第58回全国高等学校演劇大会)に行ってきました。2、3日目を見に行ってきたのでその照明のレビューを書いてみたいと思います。

2012/8/11、富山県富山市の富山県民会館にて。

いつもの通りまず大前提ですが、今回のレビューはあくまで全国大会での上演のレビューです。国立劇場(優秀校東京公演)の公演とは場所も内容も違うものです。
富山県民会館のメイン照明機材は丸茂電機製です。


●岐阜県立岐阜農林「掌(たなごころ) ?あした卒業式?」
幕あき、あまり明かりのない体育館という設定からスタートします。
こういう設定で明かりを作るのはなかなか難しいのですが、工夫して作られていました。
例えば国旗に対して明かりを当てていましたが、普段で考えれば国旗を明るくするための明かりはネライを国旗だけに定めます。しかし岐阜農林は、国旗の「影」を敢えて大黒幕に出すことで、体育館の雰囲気を作っていたと思います。
踏切の明かりは、下手SSからです。使っていた機材は確証が持てませんが、灯体の前に手動で板などをかざして光を遮って表現していたかもしれません。(やり方は憶測です。)
ねぶたには、ねぶた自身に電球をいくつか仕込む灯入れの方法を取っていました。

エンディング近く、駅のシーンは美しかったですね。まずホリゾントの明かりだけにしてシルエット状態を作り、舞台ツラにいる役者をSSでねらいます。けれどそのSSは舞台奥には当たらないので、奥はシルエットのまま。その奥に立つ役者「だけ」をじんわり単サスで狙い、駅のセットはシルエットのままという印象深いシーン明かりでした。


●土佐「化粧落し」
広い舞台をそのまま広く使ってしまったため、空間にちぐはぐ感がありましたが、明かりは忠実に基本仕込みの地明かりを使っていました。その地明かりを使うということは、アクティングエリアとしての芝居空間を定義づけてしまうことになるので、本当にこの広さをそのまま使っていいのか、まず考えてみるのも大事です。特に、袖幕後ろに隠れている役者がいるという芝居をするのですから、アクティングエリアの「隣」の存在も劇中意識せざるを得ず、その辺りの認識は演出家のご都合主義にならずもっと練ってほしいところです。
明かり的には、冒頭、1SUS上手からのソースフォーでの窓明かりが(若干わかりにくかったですが)特徴的でした。また、時間経過を照明であらわしていて、最初はナマ明かり、だんだん夕方で夕焼け明かり(フロントのアンバーや、もしかしたらSSからも入れていたかも?)、後半はブルー(たぶん3SUS下手から舞台中にかけて狙っていた)を入れるという表現をしていました。ただ、そもそも舞台が教室の設定ですから、窓明かりはともかくとして、アンバーやブルーの明かりがどういった状況で教室に差し込むのべきなのか、空間の設定から再度意識して考えてみてほしいところです。具象と抽象がごちゃまぜかなぁと感じました。


●島根県立三刀屋「ヤマタノオロチ外伝」
照明は盛りだくさんでした。
オープニングからスモークを炊いて、照明の筋(ビーム)も見えるようにしていました。
かなりいろいろなシーンでソースフォー(エリスポ)を使っていましたが、ネタによってその世界観の表現に貢献していました。SUSに吊ったソースフォーだけでなく、台上に後光が差すときのバックのころがしもおそらくソースフォーにネタを入れていて、スモーク効果のビームの出方も計算していて感心しました。
使い方としてうまいなぁと思ったのはSSです。SSも様々な使い方をしていましたが、ちゃんとSS毎の役割を意識していましたね。例えば緞帳より手前にあったSS(ソースフォーだったような)のフォーカスを、役者の上半身ぐらいまでの大きさにして下半身はきらっていました。すると、立っている役者の上半身には明かりが当たりますが、しゃがんでいる役者に明かりは当たりません。しゃがんでいる役者が頭上に手を伸ばし、その手だけに明かりがあたって浮かび上がるというような表現ができたのも、こういった手法の賜物です。

たいへん凝った明かりを作っていましたが、惜しむらくは、小さなネライのズレや、漏れなどがあったこと。綿密に計算された明かりだからこそ、少し不安定なところがあると気づいてしまいます。例えばセンター台上や上手台上の単サス。若干顔がとれないんですよね。また、ホールの特性ですが、1シーリングからその台上にネライをとると、どうしてもプロセニアムの壁に明かりがかかってしまい、壁が白色なものだからハレて目立つという欠点がありました。大会の回路の制約があるとは思いますが、プロサス、2シーリングを使うことも考えたい明かりでした。また、特に冒頭シーンで気になりましたが、ツラで芝居をやるため地明かりを1SUSメインで取っていましたが、台は少し舞台奥の位置にあるため、そこに役者が来るとなんだか表情が見えず演技を殺す結果になっていました。ホール毎の特性を理解しながら作り上げたいところですね。


●作新学院「It's a small world」
舞台上にそこそこタッパのある台と階段上のものがあり、その台上をメインにして役者が演技をします。明かりは激しくは変化せず、台上に集中させた明かりの生明かりと、ブルーの地の明かりぐらいだったと記憶しています。
そこまで激しくは明かりは変わりませんが、ときには役者3人をじんわり単サスで狙ってみたりして、でも台上の他の明かりも点いているためそこまでいやらしく目立つわけでもなく、とてもきれいに明かりを作っていました。
シンプルながら素直でいい明かりだったと思います。


●奈良県立法隆寺国際「森のひと」
冒頭は印象的でした。赤いホリゾントだけの状態で、上手にある吊り物の象徴的なシルエット。そして1SUSからの単サスがカットインで入る象徴的なシーン。そこはべつに顔を見せたいものでもないわけで、顔取り明かりはなくただ1SUSからだけです。
吊り物はとても象徴的でしたが、なぜかラストシーン以外は明かりはあたっていませんでした。これはSSなどを使って吊り物アテの明かりを作ったほうが映えるのではないでしょうか?
後半で、センター奥に置いたころがしの明かりが客席に向かってずっと点灯(目つぶし)していましたが、ずっと点けたままだと観客の位置によってはまぶしいので、なんとか考えてほしいところです。その眩しさに意図があることも分かりますが、さすがにずっと点いたままで、観客が目を背けてしまっては元も子もないのです。ころがしと、その前にじっとしている役者の位置の距離を変えることや、光量の調整でも充分工夫は可能ですし、一度観客に目つぶしをさせたあと、他の明かりでその象徴を引きずって魅せることもできるかもしれません。
LEDのロープライトを使っていて、なかなか珍しかったですね。

照明ではないですが、途中音響のトラブルがあり、流している音楽が止まるという事件がありました。機材トラブルがあったようです。普段なかなかこういうことが起こることは考えづらいですが、今回はちゃんとバックアップの媒体を使って音を流すことでリカバリしたそうです。本番では何が起こるかわかりませんから、万が一に備えた行動をすることはとても大事ですね。法隆寺国際の音響さんのこの対応力は素晴らしいと思います。


三日目のレビューはまたあとで。

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